カシュルート(Kashrut)
ヘブライ語で「相応しい状態」を意味する「カーシェール(Kosher)」を語源とし、
直訳すると「相応しい状態の状態」となってしまって、ちとややこしいが、
意訳すると「食べても良い物/食べるに相応しいもの/清い食物」ってなかんじ。
モーセの時代から、ユダヤには「清い生き物」「清くない生き物」の概念があった。
ただし、このころの「清い」「清くない」は、
「神への供物に適している」「供物に適していない」程度の区別で、
「喰って良い」「悪い」の別ではなかった。
これがどうやら、出エジプト(エクソダス)の頃……紀元前1230年ころ……
にいくらか変化した様子。
それから、主はモーセとアロンに告げて仰せられた。
「イスラエル人に告げて言え。地上のすべての動物のうちで、あなたがたが食べてもよい生き物は次のとおりである。
動物のうちで、ひづめが分かれ、そのひづめが完全に割れているもの、また、反芻するものはすべて、食べてもよい。
しかし、反芻するもの、あるいはひづめが分かれているもののうちでも、次のものは、食べてはならない。すなわち、らくだ。これは反芻するが、そのひづめが分かれていないので、あなたがたには汚れたものである。
それから、岩だぬき。これも反芻するが、そのひづめが分かれていないので、あなたがたには汚れたものである。
また、野うさぎ。これも反芻するが、そのひづめが分かれていないので、あなたがたには汚れたものである。
それに、豚。これは、ひづめが分かれており、ひづめが完全に割れたものであるが、反芻しないので、あなたがたには汚れたものである。
あなたがたは、それらの肉を食べてはならない。またそれらの死体に触れてもいけない。それらは、あなたがたには汚れたものである。レビ記 11:1-8
と、聖書に書かれるようになった。
ちなみに、駱駝は偶蹄目で反芻するけど、蹄が毛で覆われているんで
「蹄が割れていない」
という判定になっているらしい。
ちなみその2。
岩狸(ハイラックス)っていうのは、耳を小さくしたウサギのような外見をした小型の動物。
ところがこいつと来たら、足には蹄に似た扁爪がある。
上顎の門歯が一生伸び続けるのは、齧歯目ライクなのだけれど、下顎の門歯はある時点で成長しなくなるんで、ウサギ・ネズミとは違っている。
上顎の臼歯は奇蹄目のサイに似ていて、下顎の臼歯は偶蹄目のカバに似ている。
全身の骨格はサイ似、前足の骨はゾウ似、胃の構造はウマに似。
化石記録や分子生物学的な解析から、ゾウ等の原始的な有蹄類(ゾウ目やジュゴン目)と類縁関係があることがわかったってんで、
イワダヌキ目(ハイラックス目)という独立した目に分類されるようになった。
イワダヌキ目はイワダヌキ科の1科しかなくて、
・ハイラックス属(中近東からアフリカに生息)
・イワハイラックス属(東アフリカに生息)
・ツリーハイラックス属(中央アフリカから東・南アフリカの一部に生息)
の三種のみがここに所属している。
聖書では詩編や箴言にも登場し、古代ユダヤ人たちからは
「小さくて弱いがすばしっこくて頭の良い生き物」
と認識されていた様子。
ヨーロッパにはいない動物なので、
マルチン・ルターがドイツ語訳聖書をこさえる時に
「ウサギ」と誤訳したとか。
ま、もっともルター先生の翻訳は、
自分の教義に合うように「意訳」している部分があるって噂ですから、
ヨーロッパにいない動物をヨーロッパにいる動物に置き換えたってことも考えられますが。
んで。
しばらくはモーセの律法に準じたわりと単純な「喰って良し」「喰っちゃダメ」だったんだけど、
時代が下がって、色々あった
(ダビデが王様になったとか、不倫の果ての子供のソロモンが跡を継いだとか、そいつが堕落して死んじゃったあと国が南北に分かれちゃったとか、北イスラエルがアッシリアに滅ぼされちゃったとか、南ユダが異教徒のバビロニアに併呑されちゃったとか、それから20世紀に入るまでずっと「独立国家」がなくなっちゃったとか)
その中で、みなが同じ信仰を持つ「ユダヤ・イスラエルの民である」ことの共通意識を強めるため、
同じ戒律に沿って生き、同じものを飲み喰いする決まり
を作っていったんじゃないかと思われ。
ややこしい決まりだけれど、
それを守ることによって「イスラエルの神」から「イスラエルの民」として認めて貰えば、
分裂し、散らされ、苦しい生活を送っていても
やがて祝福されるという心の支えにしてたんじゃないかと。
で。
キリンなんだけど。
鯨偶蹄目 反芻亜目 反芻下目 麒麟科
で、牛(鯨偶蹄目 反芻亜目 牛科)の親類なわけで、
牛らしく角はあるし、
あの長い首でしっかり反芻するし、
蹄は二つに分かれているし、
作ろうと思えば凝乳(カッテージチーズ)も作れから
カシュルートである、っていうのがユダヤの偉い先生の見解ってこと。
実際にキリンを喰うかどうか、
あるいは「清い生き物」として生け贄に捧げるかどうかは
また別な話だけども。

